2009年9月16日発行:損益分岐点
【キーワード解説】 〜exBuzzwordsキーワード解説より〜
損益分岐点とは、損益がゼロとなる売上高のことを言う。
同じ意味で、固定費を限界利益で賄うことのできる売上高とも言える。
主として、製造業や小売業など、変動費と固定費が区分可能な業態において用いられる分析で、事業や商品ごとに、固定費をまかなうために必要な売上高を損益分岐点と言う。
計算式: 損益分岐点 = 固定費 ÷ (1−変動費率) = 固定費 ÷ 限界利益率
【昨今の状況】
9月12日の日経新聞の報道によれば、「上場製造業の収益力を示す損益分岐点比率が2008年度に89.2%と07年度比13.1ポイント高まり、7年ぶりの水準に悪化した」とのことです。
この数字は、固定費の水準が現在のままで、あと10.8%以上売上が減少すれば、上場製造業の全体損益は赤字になることを意味しており、「強い」と言われた日本の製造業も昨年下期以降の景気悪化で大きなダメージを受けたこと、経営改善努力を行わずにいれば、更なる売上減少に耐えうる余力が少なくなってきていることを示しています。
更に言えば、前述の報道で挙げられている損益分岐点比率は、損益分岐点売上÷売上高で算出されていますので、損益分岐点売上を抑制する努力以上に売上高が急減したという状況を示しています。
2008年の景気悪化は、誰もが予想できなかったペースで急速に進みましたので、このような数字が出てくることもうなずけます。
このような状況の中、経営安定化のため損益分岐点比率を下げようという努力を企業が行うとするなら、損益分岐点売上を下げる(固定費の削減か限界利益率の向上)か、売上高の増大を目指さなければならないことになります。
消費不況といわれ、新たな需要がなかなか見いだせない状況の中、売上高を増大させることは多くの企業にとって難しい状況と言えるでしょう。
また、限界利益率を押し下げようにも、材料となる素材価格や原油などのエネルギー価格は上昇していますし、こちらもなかなか困難と思われます。
となると、最後に残されているのは固定費の圧縮ということになります。
固定費圧縮の一番手に挙げられる広告宣伝費や交際費、交通費などの圧縮があらゆる企業に広がっているのも、当然と言えます。
一度、投資してしまった設備に関する固定費は、基本的に減らせませんので、広告宣伝費・交際費・交通費などの削減が一巡した後に、更に固定費を削減しようとすると残っているのは人件費しかなく、総じて、現在の日本の製造業は単純に人件費の増加を受け入れがたい状況にあるということになります。
昨年後半から、派遣切りなどが社会問題となり、政権交代を果たした民主党も労働者派遣法の見直しなどを掲げています。
社会的にこれらの要請が強まっていることは理解できますが、これらの規制強化で、国力の源泉となる企業がダメージを受け、更に言えば、国外への拠点脱出が加速するとすれば、我が国経済にとって不幸な結果につながる可能性もあります。
社会的弱者を救済することは、当然必要なことですが、その負担を企業側に押しつけることにならないか、その結果が経済全体にどのような影響を与えるのか、ポピュリズムに陥ることなく、慎重な検討を進めて欲しいと考えています。