2009年7月 2日発行:租税条約
【キーワード解説】 〜exBuzzwordsキーワード解説より〜
租税条約とは、国境を越える経済活動に対する課税権を調整することを目的とし、二重課税の回避、課税ルールの共通化、脱税防止等に資するルールを定めた条約のこと。【昨今の状況】
「財務省は26日、スイス、サウジアラビア、英領バミューダと租税条約の締結・改定で基本合意したと発表した。スイスやバミューダは情報開示が不透明な租税回避地(タックスヘイブン)とされ、金融機関が拠点を置くなどして利用している。銀行の顧客情報などを相手国に提供してもらい、脱税を防ぐ。スイスとは1971年に条約を発効。今回の改定では顧客情報交換のほか、投資家の株式配当や預金利子に対する課税などをさらに減免する。サウジアラビア、英領バミューダとは初の締結。サウジとの条約では進出企業への二重課税を防ぎ、配当・利子の課税などを軽減する。租税回避地とは法人税や所得税などがゼロだったり、非常に安かったりする国や地域のこと。徴税逃れの温床ともされ、4月の20カ国・地域(G20)首脳会合(金融サミット)でも規制・監視を強めることで参加国が合意していた。2009/6/26 【日本経済新聞】」
リーマンショック以降、そのような問題が生じたのか原因に関する議論が多く行われていますが、その理由の一つとしてとりざたされているのが租税回避地(タックスヘイブン)を用いた租税回避行為や脱税です。上述の記事では、そのような租税回避地との間で課税当局同士の情報交換を活発にし、国境をまたいだ租税回避・脱税を防止するため、租税条約の新規締結や見直しが行われることを伝えています。
このように議論を進めると、租税条約というのは日常生活にはあまりなじみのないもののように感じますが、租税条約というのは、実際にはわれわれの日常生活にも大きな影響を持っているのです。例えば、外国の有名なブランドからライセンスを受けて、日本で何らかの製品を作るような場合がありますが、その場合、ブランドを持っている国に対して、通常、ライセンス料が支払われます(日本法人はないものとします)。ここで、そのブランドを持っている外国の会社に対して日本でライセンス料を支払った時点で、そのライセンス料には源泉税がかかります。源泉税とは、給与に対する源泉徴収と同じで、いわば、海外にライセンス料を支払う前に、日本政府がそのライセンス料に(究極的にはライセンス料の受け手に)課税し、その分の税金を天引きするわけです。もしここでその天引きを行わないとすると、日本でそのブランドを使って商売をしているのにもかかわらず、全く課税されなくなってしまうからです。
しかし、そのようにして源泉税の課税を強化すると、国際間でのさまざまなやりとりが阻害されていまいます。そこで、租税条約の取り決めにより、この天引き源泉税を減免したり、免除したりすることが行われているのです。
ここで、租税条約の恩恵を受けるのは、直接的にはライセンス料の受け手(ブランドを持っている側)です。なぜなら、日本での課税が少なくなれば、その分手取りが大きくなるからです。そのため、天引き源泉税の減免・免除の届出書も、ライセンス料の受け手の会社が提出することになっています。しかし、実際にその恩恵を受けるのは、むしろロイヤルティの出し手(ブランドを使っている側)です。なぜなら、受け手が自分の手取りを確定させたい場合、仮に日本で税金がかかってこのような減免がないものとすると、出し手がはらう金額を税金の見合い分だけさらに上乗せするよう求める可能性があるからです(グロスアップ)。そこで、租税条約によって税金が減免されることによって、そもそものライセンス料自体が高くなってしまうのを防ぐことができるのです。
このようにして、租税条約は国際的な経済交流に貢献しており、日本がその技術を他の国で活かして双方の国がいい意味で発展したり、われわれが外国発のすてきな製品を手にすることができているのです。